瞬間英作文は科学的に効果があるのか?|第二言語習得研究から考える
瞬間英作文の効果を第二言語習得研究の観点から検証。アウトプット仮説、スキル習得理論、検索練習効果など、科学的根拠と注意点を解説します。
瞬間英作文という学習法をご存知でしょうか。
日本語の文を見て、即座に英語に訳すトレーニング。森沢洋介さんの書籍で広まり、今では英語学習の定番メソッドになっています。
でも、ネットで調べると「効果がある」「効果がない」と意見が真っ二つに分かれている。僕自身、どちらが本当なのか気になって、第二言語習得研究の論文をいくつか読んでみました。
結論から言うと、瞬間英作文を支持する科学的根拠は確かにある。ただし、やり方を間違えると逆効果になる可能性もある、というのが正直なところです。
「話す」ことで学ぶ——アウトプット仮説
瞬間英作文を科学的に考える上で、最も重要な理論があります。カナダの言語学者Merrill Swainが提唱した「アウトプット仮説」です。
Swainは、カナダのフランス語イマージョン教育を長年研究していました。イマージョン教育とは、授業をすべてフランス語で行い、生徒をフランス語漬けにする教育法です。
ところが、何年もフランス語を聞き続けた生徒たちの多くは、いつまでも文法的なミスが直らなかった。聞いて理解する力は伸びるのに、話す力が追いつかない。
この観察から、Swainはある仮説を立てました。
「言語を習得するには、聞くだけでは不十分。自分で話す(アウトプットする)ことが必要なのではないか」
アウトプット仮説の3つの機能
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気づき機能:話そうとして「あれ、これ英語でなんて言うんだっけ?」と自分の知識のギャップに気づく
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仮説検証機能:「こう言えばいいかな?」と試してみて、相手の反応から正しいかどうかを確かめる
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メタ言語機能:言葉について考え、振り返ることで理解が深まる
瞬間英作文は、まさにこの「気づき機能」を強制的に発動させるトレーニングだと言えます。日本語を見た瞬間、自分の頭の中にある英語の知識を総動員して文を組み立てなければならない。その過程で「あ、この文法わかってなかった」「この単語の使い方を勘違いしていた」と気づける。
インプットだけでは見えなかった自分の弱点が、アウトプットによって浮き彫りになる。これがSwainの言う「気づき」です。
「知っている」から「使える」へ
もう一つ、瞬間英作文を支持する重要な理論があります。Robert DeKeyserらが研究してきた「スキル習得理論」です。
この理論によると、言語の習得は3つの段階を経ます。
最初は「宣言的知識」の段階。文法のルールを頭で理解している状態です。たとえば「三人称単数のときはsをつける」と知っている。でも、知っているだけで、とっさに使えるわけではない。
次が「手続き化」の段階。練習を重ねることで、ルールを意識しなくても使えるようになってくる。最初は一つひとつ考えながらだったのが、少しずつスムーズになる。
最後が「自動化」の段階。もう意識しなくても、自然に正しい英語が出てくる。これがいわゆる「英語脳」と呼ばれる状態です。
ポイントは、宣言的知識から自動化に至るまでには「大量の練習」が必要だということ。
文法書を読んで理解しただけでは、知識は宣言的なまま。それを実際に使う練習を繰り返すことで、はじめて自動化に向かう。瞬間英作文は、この「使う練習」を強制的に行うトレーニングなわけです。
検索練習——思い出す行為が記憶を強化する
瞬間英作文の効果を裏付けるもう一つの研究分野があります。認知心理学で「検索練習」と呼ばれるものです。
簡単に言うと、「思い出す」という行為自体が記憶を強化するという発見です。
単語を覚えるとき、何度も見返すよりも、一度見てから「なんだっけ?」と思い出そうとする方が、長期的な記憶に残りやすい。これは複数の研究で繰り返し確認されています。
第二言語習得の研究でも同様の結果が出ています。特に興味深いのは、「聞いて真似する」よりも「記憶から引き出す」方が効果的だという実験結果。ネイティブの発音を聞いてそのまま繰り返すより、まず自分で言おうとしてから答え合わせする方が、記憶に定着しやすいのです。
瞬間英作文はまさにこの「検索練習」を実践している。日本語を見て、自分の記憶から英語を引き出す。答えを見る前に、まず自分で組み立てようとする。この「引き出す努力」が記憶を強化する。
瞬間英作文の限界——批判的な見方
ここまで瞬間英作文を支持する研究を紹介してきましたが、批判的な見方もあります。僕自身、この批判には一理あると感じています。
批判の核心はこうです。
「日本語→英語」という変換をいつまでも繰り返していると、英語を話すときに常に日本語を経由する癖がついてしまうのではないか。
1997年に科学誌Natureに発表された研究では、思春期以降に第二言語を習得した人は、母語と第二言語で脳の異なる領域を使っていることが示されました。理想的には、英語を話すときは英語のまま考えられる状態——つまり日本語を経由しない状態——を目指すべきなのかもしれません。
瞬間英作文ばかりやり続けると、「日本語で考えて、それを英語に変換する」という回路が固定化してしまう可能性がある。これは第二言語習得研究の観点からすると、完全な習得とは言えない状態です。
じゃあ、どうすればいいのか
批判があるとはいえ、僕は瞬間英作文は有効なトレーニングだと思っています。特に、英語を話す練習を始めたばかりの段階では。
ただし、瞬間英作文だけで完結させるのではなく、あくまで「踏み台」として使うのがいいのかなと。
たとえば、瞬間英作文である程度の基礎文法が口から出るようになったら、次は実際の会話練習に移行する。相手の言葉に反応して、自分の言葉で返す練習。日本語を経由せず、英語のまま考える練習。
瞬間英作文は「宣言的知識を手続き化する」段階で最も効果を発揮する。でも、「自動化」や「英語のまま考える」段階に進むには、別のトレーニングも必要になってくる。
瞬間英作文の効果を最大化するコツ
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スピードを意識する:ゆっくり考えて正解を出すより、間違ってもいいから素早く反応する練習を
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同じ教材を繰り返す:5〜7回の反復で記憶定着率が大幅に上がるという研究結果がある
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実際の会話にも挑戦する:瞬間英作文で身につけた文法を、実際のコミュニケーションで使ってみる
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卒業のタイミングを見極める:基礎が身についたら、英語だけで考える練習に移行する
まとめ
瞬間英作文には科学的根拠がある。アウトプット仮説、スキル習得理論、検索練習効果——いずれも瞬間英作文の効果を支持する理論です。
一方で、日本語を経由し続けることへの懸念もある。瞬間英作文を「ゴール」ではなく「入り口」として使い、徐々に英語だけで考える練習に移行していくのが理想的なのかもしれません。
結局のところ、どんな学習法も「それだけで完璧」ということはない。瞬間英作文の強みを活かしつつ、その限界も理解した上で、自分の学習に取り入れていくのがいいんじゃないかと思います。
参考文献
- Merrill Swain - Output Hypothesis (Wikipedia)↗
- Comprehensible Output - Wikipedia↗
- Research timeline: Automatization in second language learning (Cambridge Core)↗
- Don't just repeat after me: Retrieval practice is better than imitation for foreign vocabulary learning (ResearchGate)↗
- 瞬間英作文の効果|始める前に知るべき科学的見地からの注意点 (English Club)↗